ネットで核武装を叫ぶ前に、カルギス紛争を知れ。

ネットを眺めていると、日本も核武装すべしという意見を散見します。
もちろん理由は抑止力ですが、しかし現状を冷静に分析すれば、核に抑止力がないのは明白です。
しかし、この単純明快な結論にたどり着けない人が、あまりにも多いようですね。
今回は、そのあたりのコトをつらつらと書いてみたいと思います。

核武装に抑止力はありません。

ネットを眺めていると、日本も核武装すべしという意見を散見します。
あるいは、武装まではいかなくとも議論はすべしという、意味不明な主張ですね。

結論からいうと、核武装に抑止力はありません。
正しくは抑止力が働くときもある、ですので抑止力はないが答えになります。

ブレーキが【効くときもある】クルマやBikeに乗りたい人はいないでしょう。
それと、核武装も同じなのですね。

本件については、具体例を紐解くと一目瞭然です。
今回は、双方が核保有国であるインドとパキスタンのカルギス紛争で考察したいと思います。

カルギル紛争を題材に考察します。

カルギス紛争は、1999年に勃発しました。
ネットにもいろいろな情報が転がっていますが、参考にしたのはこちらの資料ですね。
J-STAGEに掲載されているこの資料が、もっとも客観的と判断しました。

資料によると、主な登場人物は以下の5名です。

  1. パキスタン ムシャラフ大将(陸軍参謀長 元パキスタン大統領)
  2. パキスタン カーン外相
  3. インド ヴァジパイ首相
  4. インド ティプニス大将
  5. アメリカ クリントン大統領

事の発端は、パキスタンのムシャラフ大将です。
彼は、1987年のシアチェン奪回作戦で辛酸を舐め、リベンジの機会を伺っていました。
そして、反対派のカーン外相がリタイアしたタイミングで、本紛争を引き起こします。

これに対してインドのヴァジパイ首相は、軍にLOC(実効支配境界線)越えを許可しません。
首相の意志はとても強固で、インドのティプニス大将も、基本的にはそれに従います。
ただ、現場のパイロットには、LOC越えの追撃許可を付与していたようでした。

こうしてみると、核の抑止力が働いた人、働かない人は以下の通りとなります。

  • 抑止力が働いた人:インド ヴァジパイ首相、パキスタン カーン外相
  • 抑止力が働かなかった人:パキスタン ムシャラフ大将、インド ティプニス大将

そして、本件で一番に抑止力が働いたのは、アメリカのクリントン大統領です。
すぐに調停、パ側に撤退を要求、戦況不利なパ側が折れて一件落着となったのでした。

常に抑止力が働く保証はどこにもありません。

というコトで、カルギス紛争に限っていえば、核抑止力は働いたコトになります。
しかし、実情をつぶさに観察すれば、それはめぐり合わせ次第なのがよくわかりますね。

たとえば、インドの首相が、抑止力の働かないイケイケだった場合とか。
あるいは、アメリカなどの国際勢力が、調停に消極的だった場合とか。
めぐり合わせ次第では、核エスカレーションになった可能性も十分にあるのです。

また、主たる登場人物ではないモノの、彼らに強い影響を与える勢力も無視できないでしょう。
たとえば、インド人民党の最大の支持母体であるイケイケ組織の民族義勇団(RSS)。
あるいは、パキスタン軍内部の強弁派といった政治勢力に、抑止力は働きません。
そして、このような政治勢力のコントロールに失敗すれば、全面核戦争も現実となるのです。

結局、核武装による抑止力などは、ただの幻想なのですね。
そもそも、核を含めた武力というのは、がん治療における抗がん剤です。
抗がん剤をいくら取り揃えてもがんの【予防】にはならない、誰にでもわかる話ですね。

がん予防の免疫力に相当する戦争の抑止力、それは凄惨な戦争体験以外にないと思います。
本件については、また別の記事に書くつもりです。