ブラックジャックを読みました。

ひさしぶりに、手塚先生のブラックジャックを読みました。
あらためて、ブラックジャックはヒューマニズム溢れる傑作だと思いましたね。
そして、子どもの頃に読んだときとは、また違った感想がありました。
今回は、そのあたりのことを書いてみたいと思います。

やはり、ブラックジャックはカッコいいです。

夏休みの初日、配偶者がふと、ブラックジャックを読みたいと言い出しました。
たしか、文庫本版があったハズだと、物置からサルベージです。
そして、ワタクシも文庫本版、全12巻を読了しました。

ひさしぶりに読んだブラックジャックは、完全に昭和の人でしたね。
とにかく、すべてにおいて厳しくて、それはまさに当時の体育会系のソレです。
身体が悪くて友達から笑われるという患者に、笑い返してやれないのか!?と言い放ったり。
食事を遠くに置いての強制リハビリとか、わがままな患者を平手打ちにしたりとか。

特に、生き延びることに関してのこだわりには、壮絶なモノがありますね。
昔は、こんなスパルタがまかり通っていたことを、懐かしく思いながら読み始めました。

とはいえ、読み進めていくと、そのあたりの違和感はいつの間にか消え失せます。
そして、やはりブラックジャックはカッコいいなぁと思いましたね。

医者として己の流儀を曲げない、完膚なきまでのプロフェッショナル。
クールでニヒルな科学者ながら、義理堅く人生の機微にも通じた人情家の一面もあり。
権力や権威に媚びない一匹狼にも関わらず、人並みにさみしがり屋でなかなかのマザコン。
正に、ブラックジャックは古典的なヒーロー像そのモノなのですね。

子どもの頃にむさぼるように読んで、将来はB.Jのような大人になりたいと思ったモノです。
手塚作品数あれど、個人的にはブラックジャックがダントツで、一番好きなのですね。

登場人物に対する感じ方が変わりました。

ブラックジャックの登場人物では、子どもの頃はドクターキリコがお気に入りでした。
彼の、あの諦念がよくて、生にこだわるブラックジャックが青臭くすら感じられたモノです。

しかし、この歳になって読み返したら、キリコに対する感じ方が変わっていましたね。
B.Jの言葉を借りれば、キリコはすこし見切りが早すぎなのかもしれません。

逆に、B.Jがこだわり続ける泥臭いまでの生への執念のほうが、自然かもしれないと感じました。
これについては、私自身の死に対する体験が影響しているのかもしれません。

また、ピノコに対する感じ方も変わりましたね。
子どもの頃は、幼稚で生意気でトラブルメーカーな彼女が、ぶっちゃけ苦手でした。
ところが、今読み返してみると、ピノコがとてもかわいく感じられます。

無邪気にみえる彼女ですが、実は健常者ではないコトの悲しみを抱えた人なのですね。
子どもの頃は、このピノコの心情に気づくことができませんでした。
そして、自分の命を拾ってくれたB.Jに対する彼女の敬愛に、ジーンとしましたね。
また、B.Jもそれゆえに、彼女を愛おしんでいることがよくわかりました。

歳を重ねて読み返すことで、また新しい気づきがあるブラックジャック。
やはり、手塚作品は本物であると、あらためてそう思いますね。

ヒューマニズムをリアルに描いた傑作だと思います。

全編に貫かれている生と死についてのテーマは、あいかわらず重厚です。
しかし、それをコミカルにサラリと、かつドラマチックに表現しているトコロは秀逸ですね。
もちろん、荘厳で緻密でスキのない、火の鳥のような青年向けの作品も素敵ですが。
あくまで少年漫画で、誰にでも読みやすくたのしめるトコロが本作の魅力だと思います。

そして、ブラックジャックの真骨頂はヒューマニズム。
手塚先生の作品世界を貫く正義や慈愛は、美しく不変であることを再認識しました。
この、シンプルでまっすぐな作風が、手塚作品の一番の魅力なのでしょうね。

そして、そう考えると、やはり手塚先生は少年漫画の人だと思います。
誰もが憧れるヒーローが出てくる少年漫画、その極まりがブラックジャックなのかもしれません。
B.Jは大人の私が見てもカッコいいですし、現に彼に憧れて医者になる人がたくさんいますしね。
私の知り合いでも、B.Jにインスパイアされたドクターは、三人は下らないです。

少年漫画をこの域にまで引き上げた手塚先生は、本当に偉大ですね。
そして、多くの志ある若者に影響を与え続けるブラックジャックは、人類の宝といえるでしょう。
図書館や児童館に本作を全巻揃えておくのは、大人としての義務かもしれないです。

ちなみに、B.Jで一番好きなのは、本間丈太郎先生のお嬢さんを助ける話ですね。
あの回はまず、オープニングの夏の木々が美しすぎます。
しかし、残念ながらこの話は、手持ちの文庫版には収録されていません。
秋山書店版のブラックジャック単行本全25巻、大人買いするか迷い中です。