いつか君にもわかることを観てきました。

「いつか君にもわかること」という映画を観てきました。
余命宣告を受けたシングルファーザーが、息子の里親を探すお話です。
ありがちな話と思って鑑賞しましたが、その静的な構成にやられましたね。
もしかすると、生涯忘れえぬ映画になるかもしれません。

余命宣告を受けたシングルファーザーのお話です。

「いつか君にもわかること」という映画を観てきました。
イタリア・ルーマニア・イギリスの合作映画、監督は「おみおくりの作法」のウベルト・パゾリーニです。不治の病で余命3ヶ月のシングルマザーが、4歳の息子の里親を探す話です。

この映画を知ったのは王様のブランチで、また映画館の予告でも何度か目にしていました。
おもしろそうだけど切なそうで、自分から観に行く気持ちにはなれなかったのですが、子役がかわいいので観てみたいという配偶者からのお誘いで映画館に足を運ぶことになったのでした。

ところが実際に観てみると、予想していたほどの切なさは感じられません。
映画を観ている間は、胸が締め付けられたり落涙するといったことはありませんでした。

しかしこの映画、あとからジワジワと心に沁みてきます。
自宅に帰ってからも、なぜかこの映画で頭がいっぱいになり離れることができません。
なんとも、不思議な魅力を持つ映画だと思います。

非常に淡々とした映画です。

ちなみに、映画自体は非常に淡々としています。
内容からドラマティックなシーンやセリフを期待しますが、そのようなものは一切ありません。
余命宣告のシーンぐらいあるのかと思いましたが、とんだ肩透かしです。
BGMも最小限で、ある意味ドキュメンタリーよりもドキュメンタリーらしい作品ですね。

ということで、映画を観ている間に睡魔に襲われたところも正直ありました。
ただ、変にドラマティックでない分、ひとつひとつのシーンがとてもリアルに感じられます。
なるほど、このような見せ方をする映画もあるのだと、目から鱗が落ちました。

たとえば、主人公が息子と手をつないで保育園まで歩くシーン。
落書きされた橋脚などが、自分の中にとどまる記憶のように感じられます。
そして、ちょっとした親子のやり取りや里親候補との違和感、幼い息子のとまどう心理や父親である主人公の葛藤などが、心の奥にグッと迫ってくるのですね。

しかも、その感覚がいつまでも消えず、心の中でなんどもなんども反芻するのです。
観終わったあとも、何時間も何日も楽しめる映画、これはある意味、すごいことだと思いますね。

自分だったらと、思わず考えてしまいますね。

そして一児の父、それも息子持ちの身として、思わず考えてしまうのですね。
もちろん、私もあのような選択をするとは思いますが、しかしそれ以前に、あのような状況に陥ったなら耐えられないかもしれないと思いました。

とはいえ、いくら過酷な状況でも、手作りのバースディケーキや、お気に入りのダンプカーのおもちゃ、親子で絵本に落書きするところなどなど、人生の瞬間瞬間の幸せは確かに存在するワケですし、それで我々は生き続けることができるのだなぁと、あらためてそんなことを感じさせてくれる作品でもありましたね。

主人公が息子に手紙を残すところは思い出すたび泣けますし、最後に息子が父の手を引いて里親のところに向かうシーンもすごくよかったです。絶望の中でも前向きになることで人生は開けていくのだという、とてもポジティブなやさしさすら感じられました。この映画、その内容とは裏腹にとても心地よい作品だと思います。

しかも、それがいつまでも繰り返し心の中で響き続けるというのが秀逸ですね。
本作、この感じですと、生涯忘れえぬ作品になりそうです。
機会があったら、ウベルト・パゾリーニ監督のほかの作品も見てみたいと思っています。