ルポ 死亡退院に思う、必要悪と人間の尊厳。

ルポ 死亡退院というNHKのドキュメンタリーを観ました。
まずは単純に、このような医療施設が存続していることに驚きです。
そして、あらためて人間の性といったモノを考えさせられました。
あまり綺麗事は好きではありませんが、でも理想を求めなければ生きる価値はないと思います。

この世の掃き溜めのような病院です。

ルポ 死亡退院というNHKのドキュメンタリーを観ました。
大学生で独り暮らしの息子が観てみてと、Lineでメッセージをくれたのでした。
彼は夜中の再放送を観たらしく、いろいろと想うところがあったようでした。

ということで、メッセージをもらった日の夜に配偶者と観てみました。
この番組は、今年の2月25日に放映されています。
今回は、NHKプラスの見逃し配信で視聴しました。

番組の内容は、八王子にある滝山病院の実態ルポです。
ひと言で言えば、あり得ないほどに大問題な病院の暴露番組ですね。
放送からしばらくの間は話題になっていたので、覚えている人も多いと思います。

この滝山病院は精神科の病院なのですが、入院患者に対する暴力がすごいです。
殴る、叩く、身体拘束、そして暴言、正直言って犯罪レベルですね。
患者さんの中には、不適切な治療で背中に穴が開いた人もいるそうです。
とにかく収益第一で、患者の立場や想いを無視したような医療行為が行われているようですね。

そして、番組冒頭のエピソードが強烈です。
救済を訴えていた患者さんが、その後、ひと月もしないで亡くなってしまうのですね。
死因は心不全とのことでしたが、ぶっちゃけ闇すぎます。
狼狽し唇をかみしめる弁護士さんをみて、私も愕然としてしまいました。

とにかくこの病院は、この世の掃き溜めといった感じのところです。
というか、ここまでくるともはや収容所ですね。
このようなモノが存続しているという現実に、ものすごい戦慄を覚えました。

朝倉重延という病院長が強烈すぎます。

そして、この病院の朝倉重延という病院長がまた強烈ですね。
手塚漫画にでもでてくるかのような、典型的なヒールキャラがすごいです。
中でも圧巻だったのは、取材を無視してアストンマーチンで走り去るシーンですね。
本当にこのような人が実在するのかと、ビックリするばかりです。

しかもこの御仁、2001年に起きた朝倉病院事件の当事者なのですね。
医療報酬目当ての不適切な治療で、40名以上の患者が不審死したといわれるこの事件。
もしこれが本当なら、大量殺人事件になると思います。

事件後、さすがにその朝倉病院は廃院になったようですが、この朝倉重延という院長は特に刑事裁判にかけられることもなく医師を続け、そして現在は滝山病院で院長をしているのですね。
この件についても、事実は小説よりも奇なりではありませんが、ものすごく衝撃的です。

そして、番組中に頻発される「必要悪」という言葉。
この朝倉重延の、患者の尊厳をないがしろにしたような姿勢。
この人、どこかで屈折したモノだと信じたいですが、だとしてもせめてドクターキリコレベルで抑えるべきだと思います。

もちろん、彼の描写については、番組制作側のバイアスがかかっている部分もあるでしょう。
しかしそれを差し引いても、あまりにも醜悪ですね。
ここまでくると、もはやこの病院や院長だけの問題ではありません。
このような醜悪を存続させるモノについて、考察していかなくてはいけないですね。

必要悪は必要なのか

このようなとんでも病院や院長が存続しているのには、それ相応の理由があります。
いや、理由というよりかはニーズですね。
必要としている人がいるので、いつまでも残っているという構図なのだと思います。

もちろん、一番に必要としているのは患者本人、そしてその家族ですね。
それと、行政も必要としていることが明確にうかがえます。
さらには、困った患者の引き取り手を探している他の医療機関でしょうね。
とにかく、行き場がない人が最終的にたどり着く場所、それがこの滝山病院なのです。

確かに、重篤な病気を抱えて精神的な疾患もあり、しかも身寄りもお金もないのであれば、普通はこうなってしまうとは思います。また、経済的にひっ迫した状態でこのような家族を抱えたら、放り出したくなるのが人としての生存本能かもしれません。

このあたりについては、この朝倉重延自身が開き直りともとれる発言をしています。
滝山病院のような掃き溜めは必要悪だと、まぁそのような理屈ですね。

そのような滝山病院は、核兵器のようなモノだと思います。
核兵器が人間の狂気を具現化したモノなら、この滝山病院は人間の暗部そのモノなのでしょう。
そして、人間が人間である以上、これらの存在は永遠になくならないのかもしれないですね。

でも、それを認めてしまっては負けのような気がします。
世の中、勝ち負けではありませんが、やはり負けるのは嫌ですね。

いずれにしても、このようなモノを野放図にしてはいけないです。
もちろん、必要悪といった都合のいい言葉で誤魔化すことも許されません。
もし、自分が患者の立場なら受け入れられるのかと、あの朝倉重延に問いただしたいですね。

人間の尊厳とは、朝倉重延のようなケダモノの屁理屈を封じ込めるためにあるのです。
このようなことは、もっともっとお金をかけて守っていかなくてはいけないですね。
あらためて、防衛費に47兆円もかけてる場合ではないと思うばかりです。