決算!忠臣蔵【映画レビュー】
Yahoo!映画の評価は決して高くないモノの、なかなか面白いという知人のリアル口コミで観に行きました。これ、アンチ忠臣蔵も楽しめる傑作です。
アンチ忠臣蔵です。
基本的に、私はアンチ忠臣蔵です。
この話、初めて聞いたのは小学生の時でした。
すごく感動的な話だと、戦中派の両親が教えてくれました。
ぶっちゃけ、何がどう面白くて感動的なのか理解できませんでした。
端的に、馬鹿な殿様のために47人もの家来が苦労した話ですよね。
刃傷沙汰を起こす殿様も殿様なら、それに付き合う家来も家来です。
私自身として、絶対にありえない話だと思いました。
この感慨については、50歳を超えた今でも基本変わっていません。
その後、ドラマや映画や小説や、いろいろなメディアでこの話を見聞しました。
知れば知るほど、同意できない想いが強くなるばかりです。
まず、一番にダメなのは、あのメンツ至上主義ですね。
赤穂四十七士の仇討に向かう原動力は、メンツを潰されたヤクザのそれと同じです。
この、まったくもって生産性のない行動、生理的に受け入れられません。
家臣である以上、泥船と最後まで運命と共にするというところもダメですね。
馬鹿な上層部に命をとしてまで付き合わなくてはいけない、もはや理不尽の極みです。
そして、それがあたかも世紀の美徳であるかように語られる倒錯した価値観。
控えめに言って、狂っているとしか思えないですね。
忠臣蔵の精神は、この国の悪しきモノすべてのベースになっています。
それは、かつての日本軍から現代の社畜文化まで。
いずれにしても、私の嫌いなモノが全て詰まっているのが忠臣蔵なのです。
数値は物事を客観的にする
さて、今回の決算!忠臣蔵ですが、これには原作があるのですね。
東京大学の先生が、実際に大石内蔵助が残した会計簿を元に赤穂事件を読み解いたものです。
人間の活動は、すべてお金で数値化され客観視されます。
この視点でもって、私も初めてリアルな人間模様として赤穂事件を捉えることができました。
映画は、予告ではコメディタッチですが、実際の内容は意外とシビアです。
刃傷場面や内匠頭の切腹に至る部分、そして最後の討ち入り。
そのようなわかり切ったシーンは、可能な限り簡略化されています。
そして、討ち入りに至るまでの紆余曲折が、テンポよく描かれています。
で、この紆余曲折が、数値の裏付けでもって、とても説得力があるのです。
松の廊下直後、赤穂藩に残された財産は、現代の金額に換算して約1億円でした。
その半分以上は、お家再興の活動資金に使われているのですね。
大石内蔵助のリアリストな一面が垣間見れて、興味深かったです。
それで結局、お家再興は徒労に終わります。
そして、最後に残ったオトシマエのつけ方が、討ち入りだったのですね。
しかし、それにもまた、資金難の壁が立ちはだかります。
討ち入り日を前倒ししてやっと資金が工面できるくだりには、不覚にも感動しましたね。
浪士たちがいかに追い詰められていたのか、手に取るようにわかり迫力がありました。
なんというか、ババを引いてしまった者の、最後の意地というヤツでしょうか。
そして改めて、こんな事に巻き込まれてしまった吉良上野介にも同情を禁じ得ませんでした。
赤穂に吉良、双方にとって本当に気の毒なことだと、心からそう思うばかりです。
いつの時代も世間は無知で無責任
もうひとつ、この映画で感心したことがあります。
それは、世間というモノの嫌らしさがよく描かれていたことですね。
作中、江戸の庶民は赤穂の浪士たちに仇討のプレッシャーをかけていきます。
内情などよく分からない無知蒙昧の立場で言いたい放題です。
まったく、世間とはいつの時代も無責任なモノですね。
それでも、結局は多勢に無勢です。
現実の赤穂事件も、この無責任な世間が討ち入りを煽り立てた部分が多々あるのでしょう。
悪役にされた吉良は勿論、サクッと終わりにしたい幕府にしても迷惑な話だったと思います。
そして、この無責任な世論の嫌らしさは、現代でも全く変わっていませんね。
端的に、市井の無知蒙昧が、欲求不満を晴らしているだけなのですがね。
その欲求不満解消で、今までどれだけの人がスケープゴートにされてきたのでしょう。
人間社会のホラーな一面、改めて自戒しなくてはと強く思ったところでした。
間もなく、忠臣蔵は過去の価値観
それにしても、今は忠臣蔵を熱く語る若者は少ないような気がします。
まぁ、サラリーマンを社畜と呼ぶ世代に、到底受け入れられる話ではないでしょうからね。
私のような価値観の人が、だんだん増えてきているように思います。
今後、グローバル化が進めば、忠臣蔵のようなローカルな価値観は廃れていくことでしょう。
学校の授業か何かで、どこか遠い国の話のように赤穂事件の話を聞く。
間もなく、そんな時代になるような気がしますね。
そして決算!忠臣蔵は、そんな時代の変換点に相応しい作品のようにも思います。