山口組の平成史【書籍レビュー】

山口組について書かれた本を読みました。
結論からいうと、オワコンここに極まりという感じですね。
裏社会もまた、大きな時代の変換期を迎えているようです。

山口組の顧問弁護士が書いた本です。

書店での楽しみの一つに、新書コーナーの平積みエリアがあります。
ここでは時折、掘り出し物的に興味深いテーマに出会うことができます。
最初から目的ありきのネット検索では、このような出会いはなかなかありません。
こんなことをきっかけに、いろいろと知見を広めるのもまた、なかなか楽しいモノです。

この本も、そんな新書コーナーの平積みエリアで見つけました。
山口組という固有名詞を、このようなところで目にするのは久しぶりです。
近年、この固有名詞は、コンビニの雑誌売り場の実話系週刊誌でみかけるのみでした。

最近、この組織の動向が話題になったのは、組長の出所のときでしょうか?
品川駅から新幹線に乗り込む組長の様子が、テレビに映し出されていました。
あの、アル・カポネあたりを意識したかのような組長のファッション。
その、あまりにも時代錯誤的なセンスに、ちょっと失笑でした。

ただ、それ以降はテレビはおろか週刊誌の話題に上がることもありません。
そういえば、ここ何年かはヤクザという人種自体にお目にかかったことがないです。
いったいどうなっているのだろうという想いで、本を手に取ってみたのでした。

裏社会にも押し寄せる高齢化の波

著者の山之内幸夫氏は、長年山口組の顧問弁護士をしていた人です。
ぶっちゃけ、悪徳弁護士の典型みたいな人ですね。
紆余曲折あり、最終的には弁護士資格をはく奪されているようです。

山之内氏自身は一般人で、ヤクザではありません。
組員の困りごと相談や、暴対法対策のアドバイスなどをされていたようです。

時には、敵対する組織に乗り込んで調整役もされていたようですから、お疲れ様です。
堅気の身分で、よくやるなぁという感じですね。

基本的に、この弁護士先生はヤクザの世界が好きなのでしょう。
人間は好きか嫌いかで動いているという私の論が、ここでも実証されたように思います。

それで、本の内容ですが、これが本当に山口組の平成史です。
話は山一抗争の終結から始まり、現在の分裂騒ぎまでが、山内氏の視点で描かれています。
その氏の主張の7~8割は、ぶっちゃけ盗人猛々しい的な内容です。
正直、書評に値するようなモノではありません。

ただ、一部にはうーんと唸ってしまうような内容もありました。

たとえば、現在のヒットマンは60代の高齢者なのだそうです。
この国の超高齢化は、こんなところにまで影を落としているのかと驚愕しました。
そして、いくら山口組とはいえ、これでは完全にオワコンなのではと思いました。

現在のヤクザ社会は、なり手なし、稼ぎなし、人権なしの三重苦のようですね。
なるほど、なのであれだけ分裂しても、かつてのような派手な抗争が起きないのでしょう。

山之内氏は、こうなった原因は暴対法にあると述べています。
暴対法は人権無視との主張ですから、無法者が何をおっしゃるですね。
一般人の私からすれば、暴対法してやったりです。

また、世の中には必ず落伍者がいるのだから、その受け皿が必要とも述べています。
そんなならず者たちを、ヤクザ組織は矯正して社会に適応させているのだそうです。
そもそも、ヤクザとは職業ではなく生き方なのだそうです。

もはやここまでくると、詭弁以外の何物でもありませんね。
実話系の週刊誌でも、当のヤクザ本人によってよく騙られていたりする詭弁です。

なんか、これでは衰退の一途も致し方ないような気がしますね。
かつての山口組が、どうしてここまで衰退してしまったのか?
マーケティングの視点を取り入れ、私なりに分析してみたいと思います。

ヤクザに求められるニーズ

あらためて、どうして人はヤクザになりたいと思うのかを考えてみましょう。
要は、ヤクザに求められるニーズということです。

これはもう簡単ですね。
単純に、いい格好をしたい。
ヤクザのニーズは、これに尽きると思います。

いい格好をしたいの具体例は、以下の通りです。

  • いい服を着たい
  • いいクルマに乗りたい
  • いい酒を飲みたい
  • いい女をはべらせたい

いい女というのは、まぁ派手で美人で銀座のホステスみたいなタイプの人でしょうか?

そして、これらのモノを、学歴も金も地位もない身分で手に入れたい。
もちろん、マジメにコツコツと働くことなどしたくない。
そんな人のニーズを満たすのが、ヤクザの世界だと思うのです。

さて、現代において、このようなニーズはどれだけあるのでしょう?

まだ貧しさが残る昭和の頃ならいざ知らず、今は豊かな令和の時代です。
あまりにも豊かで、ミニマリストなる人たちが支持を集めるぐらいです。
そんな時代に、いい服、いいクルマ、いい酒、そしていい女。
もちろんニーズは皆無とはいいませんが、雰囲気的に微妙ですよね。
今は、服もクルマもお酒も、そして女性も、そこそこのモノが普通に手に入る世の中です。

たぶん、豊かな現代においてヤクザを必要とする人はそんなにいないのでしょう。
そして、これが山口組衰退の、最大の要因だと考えます。

奇麗事を並べたところでヤクザはヤクザ

ちなみに、山之内氏はこのニーズのことを、任侠道といっています。
それはすなわち「なめられてたまるか」のヤクザ精神とのことです。

ぶっちゃけ、美化しすぎですね。
ヤクザになりたいと思う理由は、もっともっと野蛮で泥臭いモノだと思います。

かつては、東映のヤクザ映画が大人気でした。
そこでは、組織や親分のために自己犠牲する健さんが、格好良く描かれています。
しかし、そんな義理人情だけがヤクザ志願の動機とは到底思えません。
仮に、そうだとしても、結局はいい格好したいということに帰着すると思います。

それに、現実には健さんのように自己犠牲の精神に富んだヤクザなどいませんしね。
ヤクザや、いやそれに限らずどんな組織でも、上に上がる人間は常に自分ファーストです。
これは、この山之内氏の本を読んでもよく分かる話です。

また、 山之内氏は、バブルでヤクザが金満になったのも衰退の要因と述べてます。
しかし、清貧をよしするヤクザなど、いったいどこにいるのでしょう?
ヤクザになる人間などは、欲望の塊です。
本当に、この人はヤクザの本質を理解しているのかなと思ってしまいました。

ちなみに、この理不尽なまでの自己犠牲を伴う組織への絶対服従や、過剰なまでのメンツ第一主義というヤクザ組織の特性は、サムライ文化からきているモノですね。
そして、世の中には一定数、このサムライ文化が好きな人がいるようです。
著者の山之内氏も、基本がそういう人間なのだと思います。
もちろん、私はここで記している通り、筋金入りのアンチサムライですけどね。

裏社会も新たな時代に

ということで、ヤクザのニーズは、いい格好したい人を満足させることにあります。
それも、学歴も金も努力もなしにです。

そう考えると、発展途上国であれば、まだヤクザのニーズはあるかもしれません。
かつての日本がそうであったように、発展途上社会の豊かさへの渇望は半端ないです。
そして、経済的な理由でそれが叶わない人も多いでしょうからね。

ただ、海外には日本ほど自己犠牲を美化する文化はないかもしれないです。
となると、発展途上の海外にヤクザ組織が活路を見出す戦略も難しいかもしれません。

裏社会のグローバルスタンダードは、地下組織だそうです。
昨今の特殊詐欺をみても、裏社会は地下組織化が進んでいるように思いますね。
ヤクザのようなローカル犯罪組織は、ゆくゆくは消滅していく運命なのでしょう。
表に限らず裏社会も、グローバルスタンダード化の波は避けられないようです。

最後に、この本に書いてあった一番大切なことを記しておきます。
それは、親の愛情を深く受けた子供は、絶対にヤクザにはならないということです。

歴代の山口組の組長をみても、確かに壮絶な幼少期を送っているようです。
幼少期に自己肯定できなかった者が、強烈な承認欲求のもとヤクザを志願する。
このストーリーは理解できますね。
そして、それはとても悲しい事だと思います。

であれば、暴力団対策は自ずと明確ですね。
貧困や虐待に晒されている子供を救う、これに尽きるということです。

わずかではありますが、私もこの分野のNPOに月々寄付をしています。
すでに還暦を越えてしまったヒットマンには、それはそれで頑張っていただくとして。
つくづく、次世代には不幸を持ち越さないようにしたいモノだと、強く思うばかりです。