妻が口をきいてくれませんを読みました。

「妻が口をきいてくれません」を読みました。
一言でいえば、なかなかリアルなダークファンタジーです。
それでは、そのレビューを書いてみたいと思います。

リアルなダークファンタジーです。

「妻が口をきいてくれません」という、野原広子さんの漫画を読みました。
この作品を知ったのは、たしか二年近く前の朝日新聞の記事だったと思います。
そのときから気になる作品ではあったのですが、最近ネット広告で頻繁に表示されるようになり、それではということで、Amazonのkindle版を購入して一気読みしたのでした。

それで結論から言うと、なかなかリアルなダークファンタジーです。
一応、ハッピーエンドの体ではありますが、個人的にはダークファンタジーだと思いますね。

物語は、夫視点の第一章、妻視点の第二章、そして夫婦視点の第三章という構成です。
ある日、夫の誠は妻の美咲から突然口をきいてもらえなくなります。
ところが、その理由が夫の誠には皆目わかりません。
その様子が第一章で実にリアルに描かれていて、男性としては思わず共感してしまいますね。

ちなみに、この誠という夫は、この国のサラリーマン男性の典型のような人物です。
少々、デリカシーに欠けるきらいはありますが、夫としては平均レベルだと思いますね。
何不自由なく育てられた男性に、あれ以上を期待するのは難しいでしょう。
そして、自宅に帰ったら何もしたくないという誠の心情が、私にもとてもよくわかります。

実際、外で働くというのは、なかなか大変なことですからね。
低成長時代の昨今、職場では家人の想像以上にキツイことを言われたりするモノです。
見た目は出勤のときと同じでも、心のバッテリー残量がほとんど残っていないこともザラですね。
私もサラリーマン時代は、自宅に帰ったらもう何もしたくないという感じでした。

そのような状況で、家人から手ぐすね引いて帰宅を待たれていて、すぐにあれをしてほしい、これをしてほしいと言われても、正直つらいです。あまりにも心のバッテリー残量がすくないときはキレてしまうかもしれません。

このあたりは、Amazonのレビューでも指摘されている方が多いですね。これについては、自宅で待っている側として理解しておくべきところでしょう。ただ、誠と美咲の夫婦があんなことになってしまったのは、これが主原因ではないようにも思います。

自宅で待っている側も意外とつらい。

第一章では、夫の誠とともに、なぜ妻の美咲が口をきいてくれないのかが疑問のまま、物語は進んでいきます。そして第二章で、その理由が明らかになっていきます。ただ、本作ではその理由が、誠のデリカシーのなさのようにも描かれているのですが、しかし本当の原因はそこではないような気がするのですね。

ちなみに、妻の美咲は二人の子どもが生まれて育児が始まったあたりから、ずっとイライラしています。これについては美咲本人も自覚していて、でもどうしてイライラしているのか自分でもよくわからない状態なのですね。そして、夫の誠にもつらく当たり、ますます夫婦間の溝が深まっているのです。

この美咲のイライラは、コミュニケーション不足からくる欲求不満から生じているモノと思われます。彼女は孤独で、日中の話し相手が誰もいません。そして、女性にはコミュニケーションが不足するとストレスを感じる傾向がありますから、これで常にイライラしているモノと考えられるのですね。

実際、私も在宅で仕事をしているのでわかりますが、日中ひとりで自宅にいるというのはかなり孤独です。ましてや小さい子を抱えているのであれば、その不安は相当のモノでしょう。これは、外に働きにいっている人には、なかなか理解しづらい心情です。なぜなら、働きに出ている人にとって、自宅はどこよりも安住できるところなのですからね。

これについては本作でも、「一日家にいるんだからいろいろできるでしょう」という、美咲に対する誠のセリフでリアルに表現されています。しかし、よく考えれば、ずっと自宅にいる美咲にとって、安住できる居場所は存在しないのですね。要は逃げ場がないということで、それゆえに美咲は6年間も誠と口がきかないぐらいに煮詰まってしまったのですね。

この留守番している者のつらさは、外に働きにでている者としてキチンと理解しておかなくてはいけないでしょう。ひとりで自宅にいるというのは、コミュニケーションを必要とする女性にとっては精神的にハードなことなのです。このことを、男性はロジカルに理解しておく必要があると思いますね。

夫婦といえど、いや夫婦だからこそ思いやりは大切です。

ということで、本作の誠と美咲のような事態に陥らないためには、たしかに夫側の配慮も大切ですが、それ以上に妻側で煮詰まらないための対策が必要だと思います。これについては、原因が孤独からくる欲求不満とハッキリわかっていますので、夫以外のコミュニケーションを準備するになりますね。

具体的にはママ友などの友人、隣人など、夫以外の相談相手をもつことです。
あるいは、実家に頼るもアリでしょう。
また、SNSやブログなどでつながりを持つのも、ひとつの解決策だと思います。

相談相手が夫一人という一本足打法は、やはりリスクが高いです。いくらよくできた夫でも所詮は人間、いつもいつも妻のことを受け入れられるだけのバッテリー残量があるとは限りません。

実際、私の配偶者も、育児休暇をとった一年間は精神的にかなり大変だったようです。
それを救ったのは、彼女の学生時代からの友人でしたね。
あの時期、ちょうどその友人にも同じ歳の子どもがいたのが幸いでした。
そして、育休中はしょっちゅう一緒に遊んでいたことで、煮詰まらずに済んだのですね。

ただ、友達つきあいが苦手な女性もいらっしゃいますし、それで実家との折り合いも悪いとなると、美咲化する確率は飛躍的に高まることでしょう。実際、リアル美咲な方のブログなどを拝見してもそう感じますし、このような方々は自身の想いを内部にため込むことが多いので、ますます危ないです。ですので、夫側としてはよく妻の動向に注意を払う必要があると思いますね。

また、夫側としても、最低限のデリカシーは男の品性として備えておくべきでしょう。たとえば、女性のボヤキに理詰めで返すのは完全にマナー違反ですし、相手の仕事にケチをつけるのも、よほどのことがない限り、やってはいけないことだと思います。本作でも、夫の誠にこのあたりが欠落していたことが、事態悪化の一因になっていますね。

本作は、一応ハッピーエンドの体ですが、しかし最後のページで美咲が貯金通帳を確認している場面はなかなかダークです。一度こじれた人間関係は、やはりそうかんたんに回復できるモノではないということを暗示していて、ちょっと怖いですね。

本作を読んであらためて、夫婦関係にも、いや夫婦関係だからこそ、お互いに思いやりが必要だと思い知らされました。この記事が、ちょっと煮詰まり気味なご夫婦の参考になれば幸いです。