起業家を育てる高専について思うこと。

週末のワイドショーをみていたら、ある高専が紹介されていました。
起業家を育てる新設の高専とのことでしたが、ぶっちゃけ疑問符だらけです。
あれで起業家育成など絶対にできないと思うのですが、ネットには肯定的な意見も多いですね。
今回はそのあたりについて、思うところをつらつらと書いてみたいと思います。

起業家を育てる新設の高専が紹介されていました。

週末のワイドショーをみていたら、ある高専が紹介されていました。
神山まるごと高専、徳島にある新設校です。
番組によれば、起業家を育てることを目的とした高専のようですね。

テレビには、授業の風景が映し出されていました。
そこでは、あるビジネスモデルを思いついた学生が、講師からダメ出しをされています。
学生は、そのモデルがブルーオーシャンかどうかを確認していなかったようですね。
大手企業の役員でもある講師が、ドヤ顔で学生を指導していました。

これには、呆れたを通り越して憤りを感じましたね。
ビジネスモデルを思いついたのは、まだ中学を卒業したばかりの学生です。
15~6歳の学生がビジネスモデルを考えるだけでも、個人的にはすごいことだと思います。

それを、浅ましい小銭稼ぎのテクニックでダメ出しですからね。
いったい、あの講師は何を考えているのでしょう。
これでは、あの学生本来の良さまで潰してしまうような気がします。

本当に世の中には意味不明な人がいるモノだと、この学校について調べてみました。
そうしたところ、ここはITに特化した高専のようです。
カリキュラムをみると、プログラミングやUIデザインといった講義が大半でした。
立ち上げたのは、とあるIT系の起業家のようです。

プログラミングのためのプログラマー育成は時代遅れ。
そこで、すこしビジネスのエッセンスを取り込んだカリキュラムを取り入れた。
なるほど、昨今のIT起業家が考えそうなことではあります。
しかし、これでは起業家以前に、マトモな社会人すら育たないと思いますね。

本当に、この学校を立ち上げた人は、起業に必要なことがわかっているのでしょうか?
それ以前に起業ということ自体が、よくわかっていないようにすら感じでしまいますね。
まずは、そのあたりについて、考えを整理してみたいと思います。

起業は手段であって目的ではない。

古今東西、起業に必要なモノは、ビジョンに対する熱い想いと人望です。
熱い想いは言わずもがな、人望については、これは会社経営はひとりではできないからですね。
逆に、戦略論といった小賢しいテクニックは、まったくもって不要だと思います。

起業の成否は、どれだけ多くの優秀なブレーンを集めるかで決まりますからね。
起業家は、諸葛孔明ではなく劉備を目指さなくてはいけません。
ですので、起業家には人望が必要なのですね。
そして、小賢しい戦略テクニックは、諸葛孔明に任せておけば良いのです。

ところが、この学校でやっていることは劉備ではなく諸葛孔明の育成ですね。
このあたりにも、どこか根本的なズレを感じてしまうのです。

そもそも、起業は手段であって目的ではありません。
おもしろいゲームを作りたい、火星に有人施設を作りたい、恵まれない子どもをなくしたい。
やりたいことが見つかったら、人はまずそれらを実践している組織に入ります。
そこでノウハウを得て、組織の活動では物足りなくなったところで起業するモノなのですね。

また、ビジョンも、最初は”やりたいこと”から始まるものです。
そして実績を積み上げていく中で、やりたいことがビジョンに昇華していくのですね。

ところが昨今は、最初に起業家を目指すという風潮です。
そして、起業をするためにビジョンを探すという流れになっていますね。
これでは、あきらかに本末転倒のような気がするのです。

また、起業のためのビジョンはできるだけプレーンであることが望ましいと思いますね。
例えば、水道哲学の松下幸之助さんや、世界一の自動車会社を目指した本田宗一郎さん。
あるいは、コンピューターで世界を変えようとしたスティーブ・ジョブズなど。
成功者のビジョンは、たいていはプレーンでわかりやすいです。

そして、これらの大経営者は、ビジョンへの熱い想いと人望の両方を兼ね備えていますね。
ただ、この両方を高い次元で備えるのは、とても難しいです。
ですので、起業はだれにでもできるものではないと思うのですね。

起業したいなら、普通に人間性を磨くべき。

さらに、このビジョンがおかしいと、会社もおかしなことになるような気がします。
これについては、個人的に思い当たる人がいますね。

思い当たるのは、居酒屋チェーンのワタミを起こした渡邉美樹さんです。
佐川のトラックドライバーで資金を作っての、劇画チックな起業で有名な人ですね。
そしてこの人も、ビジョンの前に起業ありきの人だったりするのです。

渡邉さんは、事業に失敗した父親のリベンジ戦ということで起業を目指したようですね。
居酒屋を始めたのも、居酒屋が好きとか、それで食文化を変えたいということではないようです。
旧態依然とした外食産業にシステマティックなビジネス形態を持ち込めば勝てると思ったので参入したと、彼本人が語っていたのをテレビで見た記憶があります。

たしかに、戦略としては百点満点でしょう。
ただ、すべてがあまりにも屈折していると思いますね。
そして起業から30年ほどで、ワタミはブラック企業のレッテルを貼られ失墜しました。
それも、この屈折した起業動機が多分に影響していると、個人的にはそう思います。

結局のところ、健全な経営には健全なビジョンと人望が必要なのですね。
はたして神山まるごと高専で、このような人材は育成できるのでしょうか。
個人的には、普通に中高生活を送ったほうが起業家精神を養えるようにも感じます。
ただ、あの高専は授業料が無料ということで、そこは評価できると思いますね。

そして、高等教育機関のブランドは、就職力と進学力で決まります。
いくら斬新なカリキュラムと講師陣を揃えたところで、最後はそこですね。
はたして、この学校は今後どのような評価を得るのか、とても興味があります。

もちろん、この学校の場合は、就職力や進学力より起業力になるのかもしれません。
いずれにしても、この先10年でどれだけの実績が出せるかでしょう。
まさに、これぞ起業の醍醐味ですね。
いろいろと批判的なことを書きましたが、学生のみなさんにはがんばってほしいと思います。